ブッ壊れたシャワーヘッド

好きなものを、不規則に撒き散らすだけ

17/12/24 すべての四月のために ソワレ@北九州芸術劇場 大ホール

私の浅い遠征歴の中でも一番遠出となった今回の舞台鑑賞。先行抽選も一般販売初日も惨敗でかなり傷心していたところ、上演期日が近くなった時もう一度チケット販売サイトを見に行ったらかなり出てるじゃありませんか!ということで難なくチケットをゲットし宿や飛行機を手配。正直シベリアに住んでいると、東京でも関西でも九州でも飛行機乗ることには変わらないので(違うのは便数ぐらい)、急遽九州行くことになってもなんの抵抗感感じなくなったという。

2014年に見に行ったブエノスアイレスもそんな感じだったな。たまたま上演日間近にチケットサイトを見に行ったら余ってるチケットがあったから見れたの。やっぱり舞台は見に行けてなんぼだし、生でみることでまた新しい魅力を発見するから、よっぽどコンサートとか人気公演でないかぎり、チケット諦めないで欲しい。

 

 

というわけで前置きが長くなりましたが。とても良かったです!剛くんもそうだけど、まず4人姉妹のキャストが発表された時点でかなり期待大だった今回の舞台。実際とても輝いておりました。今回の剛くんの役どころはあえて脇役っぽいというか、主軸でありつつも物語においては客観的な立ち位置で物事を見ている立場にある人物なので、主役主役してるわけではないのですが、存在感は放ちつつもきちんと客観性を保っていて、時折笑わせてくれつつもきちんと引き立て役に回っていて、さすがだなぁと思いました。そして4姉妹。もう本当に4人4様で可愛らしくて魅力的で。みんな見ていて愛おしく感じるし、その愛おしさがあるからこそラストの切なさが際立っていました。とりあえず獣道のDVD発売になるしもうちょっと沙莉ちゃんの演技を見たくなった次第。

 

以下ネタバレにつきたたみます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1944年。朝鮮半島から少し離れた島で理髪店を経営する安田の洪吉(ホンギル)と英順(ヨンスン)夫婦。2人には4人の娘がいた。長女冬子は足が不自由なため、家のお手伝いを。次女秋子はとても真面目で堅い性格で、島の小学校の先生を。三女夏子はとても自由奔放な性格で、いつか李香蘭のような歌手になるのを夢見て元旦那を付き人として連れながら地道に活動中。そして、四女春子はとても正義感のつよい熱い性格で、まだ定職にはついていない。

長女冬子の幼馴染でもある萬石(マンソク)は秋子と結婚することになったが、幼い頃冬子の足を折ってしまったという負い目とまだ冬子に抱える淡い恋心もあり、未練タラタラ。それを知っている秋子もイライラしていた。とはいえ結婚式。親戚や地元の住民も集まりみんなでささやかも盛大に祝っていたところ、日本軍の篠田将校と高田二等兵が理髪店に突然やってきて、これから安田理髪店が軍管轄のもと、日本軍御用達のものになったと宣言する。夏子も軍管轄下の酒場の歌手となった。戸惑いつつも現実を受け入れ、持ち前の明るさを振舞う安田家。しかし、時代の流れとともに、彼らの平穏な生活は徐々にかき乱されるのであった。

冬子は最初でこそ、全てを諦めるかのように無駄事言わず理髪店で篠田将校の世話をしていました。しかし、そこで二人語り合ううち、徐々に同じく片足を不自由とする将校に愛情を寄せるように。篠田も篠田で、片脚しかないことから重要な仕事を任せてもらえず、この離島で意気消沈していたところを、冬子や安田家の優しさに触れることで改めて人生を見つめ直すようになり、徐々に「冬子を連れて静かに暮らしたい」という気持ちになる。日本の軍人が朝鮮の女性を連れて生活するという、当の時代には到底大半の人に受け入れられないことではあるが、二人はそれでも一緒に歩いて行くという意思を固めていくのであった。

秋子は萬石の煮え切らない様子や、己の力で小学校の子供たちを戦争という波から救えないという無力感に苛まれていたところを、たまたま理髪店の前で「戦争は嫌いだ」と泣き叫ぶ日本軍の高田と出会い、母性が現れ、倫理と道徳の狭間に悩みながらも不倫に溺れていく。

夏子は一見軍配下のバーで歌うようになり、さらには軍支給の食べ物ももらえることができて自分の夢を叶えたように思えたが、実際は色気だけ強調したチープな衣装を着ながら自分が望まない曲ばかり歌わされ、日々フラストレーションを溜め込んでいた。それでも常に明るく振舞おうと、自分のことを嗜める秋子に反発しながら、李香蘭のような歌手になるという夢をあきらめず現実と戦っていた。

そして春子。正義感の人一倍強い春子は、日本軍への憎しみというよりは、もっと大義名分としての「これからの平和」のため、夏子に頼んで手に入れた軍基地内の秘密を新聞記者に密告し続けた。結果、事実が発覚し、篠田の配慮も虚しく、夏子や家族、そして仲間を庇い逃走を図ったことで銃殺される。

春子の命を失い、駆け落ちという名目で冬子も連絡が途絶え、失意に狂いそうになる母英順。秋子もまた、戦局が不利に陥り戻らぬ道へ進む高田を見送りながら悲しみに暮れていた。それでも、明日はやってくる。秋子はのちに萬石と息子とともに島を離れ、夏子も元旦那と夢を追いかける旅へ。のちに夫洪吉も老いでなくなり、一人になった英順はそれでも一人で理髪店を守り続けていた。そこへ、ある日、20歳の大学生になった萬石たちの息子、萬吉が遊びにやってきた。いろんなものを失っても、孫という幸せを手に入れ、それでも日々は続いていく。

 

 

 

現実の苦しみに心が切なくなるも、それでも強く笑顔で生きようと未来を見据える安田家の人々が愛おしく感じる、そんな舞台。

 みんなそれぞれ自分たちの人生を生きる上の信念があって、その信念を貫くために時折過ちを犯してしまうかもしれないけど、それでも絶対的な悪人なんてどこにもいなくて、それぞれ人生に与えられた試練を乗り越えながら、それでも明日はやってくる。

4姉妹やそれを取り巻く人々一人一人の人物像がとても丁寧に描かれていたからこそ、どの人物に思いを寄せてもストーリーの見方は変わってくるなぁと思います。

 

私はやはり春子ちゃんに一番感情移入をしてしまいました。家族のことは大好き。理髪店に出入りする軍人個々人に対しては特段悪意はない。そして幼馴染の吃音の軍人大雲(デェウン)に対して友達以上の気持ちを抱いている。そんな等身大の明るい女の子だけど、でも内心は戦争や平和という社会全体に対する強い正義感と責任感を抱いていて、どこかで現状を打破したく自分なりの行動を起こしている。それが例え世間的には反社会的な行動だとしても、いつかそれが正しいと証明されると信じて自分の命も恐れず動いた春子のその果敢さと意志の強さには本当に心動かされました。

なにより彼女と大雲の関係が切ない。一方で同じ酒飲みとしてドンチャン騒ぎつつ、それでもどこかで大雲のその吃音や、日本軍に従ずる身として戦争が終わったあとの彼の島での立ち位置を案じる優しさ。最後の最後軍に捕まり死を覚悟したその瞬間までも涙することなく笑顔で現実に立ち向かった春子は、隣で泣き叫ぶ母英順とのコントラストもありとても儚く美しかったです。最後、全ての悲しみを吹き飛ばすかのように踊る安田一家の後ろで、ひっそり白のチマジョゴリを着て寂しそうに微笑む春子の姿には、とても胸を打たれました。さいりちゃん、良い役者さんだなぁ。大雲くんが春子を思いながら、いつも二人で詠んでいた「春は梅桃桜で一杯、レンギョウで一杯、ツツジで一杯。夏は朝顔で一杯、昼顔で一杯、夕顔で一杯。秋は芒紅葉名月で一杯、月が出なくても一杯。冬は雪見で一杯。そんでまたまた春が来て、乾杯。」を一人で呟く姿が切なくて切なくて。何回も出てくるから覚えちゃうんだけど、出てくる度に人物の心情が変わっていて、すごくよかったねぇ。

 

もちろん剛くんも。2人の女性の間で揺れ動き、ときには優柔不断さを示しつつも、萬石なりに自分が置かれている現実を前向きに捉えようとしているところは、見ていてもどかしく感じるもでもいじらしく。最後一人2役で息子萬吉として出てきたときは普通に大学生でした。妖精さんか。最後カーテンコールで出てくるときは萬吉として出てくるので全体的にきゃぴきゃぴしてるし、洪吉と英順に手を繋がれ出て行くときは満面のにっこにこの笑顔で捌けてくの、大変可愛かったです。

 

陳腐だけど、やっぱり「子供」ってとても直接的に「次世代への継承」を意味しているし、どんなに辛い歴史でも、それでも続けて強く生きてきたからこそ次の未来が次の世代があるんだということを、とある一家の歴史を通して私たちに訴えてきたこの舞台。今の日本社会における在日朝鮮人の現状を考えると、決していまの時代が生きやすくなったわけではないし、まだまだ困難多き世界だと思うけど、それでも明日は来る。だからこそ一日一日を大切にそして明るく過ごしたいなぁと考えさせられる舞台でした。

 

しかし、舞台後一人で梅酒片手に食べてた北九州のブリとマグロはめちゃくちゃ美味しかったなぁ…あと焼きカレースペースワールドに行けなかったのはちょっぴり心残りだけど。

今年も早速滝沢歌舞伎への健くん出演や、TTT発売、onesコンDVD発売と盛りだくさんですね。早くひろしと坂本くんの舞台の話も欲しいです。お待ちしております。