ブッ壊れたシャワーヘッド

好きなものを、不規則に撒き散らすだけ

17/07/01 君が人生の時 ソワレ@新国立劇場 中劇場

半年以上寝かせて、勿体なさすぎて供養の意味で公開してみたけど内容は半年前にとどまってるので多めに見てください。

 

 

 

 

坂本くん大千秋楽+健くん38歳の誕生日おめでとうございます!!

この日が私の最初で最後の観劇だったのだけども、真ん中に20分の休憩があるとはいえ3時間の超大作での座りっぱなしは、いくら超高級座布団のレンタルがあってもかなりお尻と腰にきておりまして、プラス先週から諸事情により患っている胃腸炎のせいでいろんな戦いを強いられた私。

そう考えると、6月上旬から時には一日2公演でかなり座りっぱの演技が多かった坂本くんのお尻も大変なことになってたんじゃないかなと勝手に心配。しかも結構ずっと足くんで動かないシーンに合わせて、ずっとシャンパン飲んでる役だったので、足痺れたりとか膀胱がやばくなったりしなかったのかなと親心でいておりました。多分すんごい余計な心配!

ろんろんさんも途中途中休憩挟むとはいえ、かなり激しめのタップダンスをずっと踊ってる役だったからそれもそれで心配と、やたら役者さんのコンディションの心配をしておりました。

 

そんな観劇でしたが、今回きちんと坂本くんの板上でのストレートプレイを見るのはこれが初めてなので*1、前知識がテレビドラマでの演技くらいしかない私はいろんな意味でドキドキしてたのですがまっっっっったくの杞憂でした!(爽やかに失礼な発言)

客席が暗転してから、冒頭から坂本くん演じるジョーはもう登場していたのですが、座っている佇まいがもうすでにジョーそのものだったし、登場人物一人一人がある意味主人公といえる本作において、いい意味で気配を消して遠巻きに全員を包み込む包容力を醸し出しているその格好は、ジョーが求めそして実践していた優しさと、彼のバックグラウンドが見えないがゆえの胡散臭さがあり、見ている側もすぐその世界観に引き込まれました。ドラマではかなり気になっていたセリフの言い回しも、舞台上では自然に感じられ、特に違和感なく見られました。やっぱり坂本くんは舞台では役が憑依し体全体で役を体現する役者さんなんだなぁと誇らしい気持ちにも。

 

前置きが少々長くなりましたが軽くあらすじを書いたのでたたみます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 1939年。港町サンフランシスコの波止場にはイタリア系移民のニックが開く場末の安い酒場があった。波止場という土地柄上、いろんな人種のいろんな職業の人が出入りし、時にはステージでパフォーマンスをしたり、時にはピンボールゲームに勤しみ、時にはジュークボックスに耳を傾けながら酒をひっかけ自分のことを語っており、それらをニックは「トラブルさえ起きなければ邪魔をしたくない」的なモットーと深い懐で受け入れている。

そんな人の行き来激しい安い安い酒場に、なぜか高級スーツを着た身なりのいかにもお金がありそうな謎の男ジョーは朝から晩まで入り浸り、同じ席でシャンパンを頼み続けていた。彼は自分のこと、とりわけ財源や仕事については一切語ることがない。ただただ酒場にやってくる人たちの話に耳を傾け、無条件で彼らの嘘かまことがわからない人生経験を100%信じ、そしてその話に敬意を払うかのごとく酒を奢るのだ。

哲学者のようなアラブ人、ポーランド系移民で自称元バーレスクダンサーの娼婦、コメディアンになりたがって職を求めて酒場にくるもコメディアンとしての才能は皆無で、でもタップダンスが一流なエンターテイナー、餓死寸前で倒れこむように酒場に来たピアノの上手な黒人、旦那を待ち続けるアイルランド系移民の夫人、歌が上手なギリシャ系移民の新聞配達の男の子、自称人生経験豊富冒険経験豊富なマカロニウエスタン被れのカーボーイ、看護婦の彼女を待ちわび続けるボンボンの青年、政府の言いなりにならざるを得ず燻る心優しい警官とその幼馴染で対政府のストライキを試みる運搬工の熱い男性…実に多種多様な人が来て話をしますが、それら話にジョーは静かに耳を傾け、時には共感を示すかのように語らいます。

そして彼には家来のような弟分「トム」がいた。3年前にたまたま大病患うトムを拾ったジョーはチキンスープをたらふく飲ませ病院にも連れて行き、無職の彼の生活をずっと援助し続けており、トムから兄貴として慕われていた。ジョーは紳士的な態度で酒場の来客に接する一方、トムのことはかなりぞんざいに扱い、いつもお金を持たせては使いパシリのように利用して必要性が不明なものを買わせているが、一方で常にトムのことは気にかけており、彼が元バーレスクダンサーと自称する娼婦キティに恋をしたと見抜いた途端、両者をくっつける手助けをしてあげたり、トムの就職まで手配したりしていた。

そんな平穏な酒場だったが、市民ストライキや娼婦の出入りを気に食わなく思っていた政府の役員が「取締」と称して暴力を振りかざしたとき、その平穏は破られていくのであった…

 

 

 

 

 楽しみにしてるが故に、今回は本当に時代背景含め、なにも前情報を入れずに挑んでみましたが、幕間でパンフレットを読んでいると、やはりも少し勉強してから見てもよかったかなぁなんて思ったり。

最初はなんとなく「差別良くない、貧富貴賤にかかわらず人は皆自分の人生を必死に生きているYO!」なんていう話かなと思っていましたが、そこに第一次世界大戦という背景が加わるだけで、セリフの随所に隠喩的な意味合いを感じましたし、それこそ酒場にくる客の国籍一つ取ってもいろんな意味合いが含まれるのかなと。

酒場にいる一人一人の目線から見たとき、この劇は比較的ハッピーエンドだと思います。最初こそみんな周りを騙しそして自分にも時折嘘をついて、「叶いやしないだろう」と思っている夢物語をそれぞれが追い求めます。自由なダンサーになりたかった娼婦、真のカウボーイになりたかったただのおじさん、みんなこの酒場でジョーという最高の聞き手に悩みを激白し、そしてそれぞれの方法でその心の中のくすぶりを打開して前へ進む希望を見出すのです。

 

しかし、ジョーはどうだろう。彼は周りが羨望する金や名声こそ手に入れていますが、ジョー自身が本当に手にしたかったものは周囲が手にしていくのを見るだけにとどまります。戦争は嫌いなのに止められない、金は嫌いなのに自分にまとわりつく。最終的に、自分が桃源郷と描いたこの酒場の秩序を乱す警官のことすら、拳銃を手にしているのに止めることができなかった。酒場の人たちがそれぞれ自分たちの希望を見出している中、一人酒場を離れるジョーの背中は悲劇そのものなのかなぁと一人感傷に浸っていました。

ジョーのお金ってどこから来たんだろうね。セリフに意味深が話が多かったんだけど、やっぱり戦争特需でいきなりお金を増やした武器商人とかそこらへんなのかなぁ。とにかくあまり日が当たるところで大々的に言えるような仕事じゃなさそうだよね。

でもおヒゲまーさんがスリーピースをかっちり着込んで、片足引きずりながら歩くっていうのはいろんなフェチをくすぐるものがありました(笑) それぞれの話に耳を傾けるとき、そのストーリー一つ一つに表情をこまめにかえて、時には茶目っ気たっぷりに笑い、ときには苦しそうにしかめっ面をする坂本くんのその演技の細かさには驚きつつ、ガムを誰がよりたくさん口に頬張れるか大会でもごもごしながらガムを詰め込むところはげっ歯類全開で可愛さのあまり変な声が出そうになりました。

坂本くん以外のところでは、とにかく酒場のオーナーニック役の丸山さんが素敵。ときに厳しくときにお茶目。そして娘にめちゃんこ甘甘な様子はとても人間くさくも暖かくて、一番感情移入もしやすかったです。あとガム対決してる時うしろでドン引きした顔してるのも笑った。

すごく難しい舞台なのかなと正直最初は構えて挑んだところもありましたが、シンプルに人生の希望を見出す姿は今の私たちにも通ずるテーマがあったし、それが実現できないジョーのやるせなさは今もがく私たちにもやはり通ずるものがあって、難しいけど共感もたくさんできるそんな作品だったと思います。坂本くんも今回の舞台は初めてのことが多く挑戦ばかりだったと言ってますし、またこういう作品に挑戦してくれるのはファンとしても嬉しいです(謎の上から目線)。でもまたミュージカルも見たいよ!

 

 

 

 

*1:TTTはちょっと異色だから別枠というか