ブッ壊れたシャワーヘッド

好きなものを、不規則に撒き散らすだけ

2020/10/10 獣道一直線!!ソワレ@PARCO劇場

まずは地方公演含め全60公演、誰一人欠けずに最後まで完走し無事千秋楽まで迎えられましたこと、誠におめでとうございます!舞台公演がきちんと上演されることの難しさを痛感させられた昨年において、この偉業をちゃんと為せたカンパニーはすごいよ。そして本当に皆さんご無事でよかった。

パンフなどを見ると、やはりこんなご時世なので、稽古終わりはみんな直帰、一度たりとも飲みに行くことができず、実際のところお互いどんな本音を抱えて練習に挑んでいるかわからないからちょっと不安なところもあったとおっしゃる皆様。気持ちはよくわかる。早く事態が収束するといいね。ほんとにね。

 

さて、そもそも総数として今年は舞台の上演作品数も激減しているし、正直都内在住として県外への遠征ができないわけだから、観劇する箱がかなり限定されてくるのはあたり前田のクラッカーなわけなのだけど、それにしても昨年は本当にたくさんパルコ劇場にお世話になったなー!ありがとう!ちなみに新生パルコ劇場は心なしか一層客席が急勾配になってるから見やすくて個人的には好きだよ!ありがとう!(二回目)

 

念願叶ってねずみの三銃士。初結成の時はまだ海外に住んでいたので見れず、前作の万獣こわいは普通に大人気すぎて全然チケットが取れなかったので、今回皮肉にもコロナだからこそチケットを確保できたという経緯があります。予想はしてたけど、やはり地方遠征組や普通に今観劇を自粛している方がいらっしゃる故、このメンバーとのこの内容でまだまだパルコの席が埋まらないというのは、やっぱりちょっとだけ寂しかったですね。それでも、7月に来た時はまだ席に間隔をあけてキャパの半分までしか客入れができていない状態だったので、両隣にお客さんが居たってだけでもすごく嬉しかったけどね。同時に客席内で私語ペラペラしゃべるお客さんは滅びてほしかったね。飛沫飛ばすな。

極力なにも前情報を入れずに見に行ったから、パンフレット読むまでのぶえさんとくんくが初共演なの全然知らなくてびっくりしたよ…マンハッタンラブストーリーに出てませんでした?!って思ったけどあれ猫背椿さんだった…すみません…

 あとこれWOWOWでやるんだっけ?いわゆるオチを知っていると面白さが半減するタイプの舞台なので、これから映像にて見る予定のある人は、見てから読むことをお勧めするよ。私のところに来る人にそういう人がどれくらいいるかわからないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

雑なあらすじ:首都圏連続不審死事件をもろ下敷きにしているお話。ドキュメンタリー作家のクドカンが、妊娠中の奥さんの美月ちゃんがたまたまネットで見て興味をもったという、ちくわ工場に勤める「苗田松子」という女性(池谷さん)を訪ねて撮影オファーをかけながらインタビューをしていくと、そこにはあまりにも危険な愛憎渦巻く過去が隠されていた。お世辞でも美人とはいいがたい苗田松子に対し、なぜ数多の男たちが魅了され、だまされ、そして命を落としていったのか。そしていつしか妻さえもその女性の魅力に惹かれていき、リアルと虚像が綯交ぜになる中、真相に限りなく迫ってしまったクドカンは最後、苗田の巧みな話術の術中にはまった男たち(3銃士)によってちくわの材料とされたのである。

 

くんくの血肉はちくわ120本分くらいあった。よ。たぶん。

 

自分の感情や考えを素直に出す人間って、最初こそ激しい違和感を与えるけど、やっぱり魅力も併せ持つ。苗田松子もそう。彼女はとことん劇場型というか、人を激しく愛し、激しく憎み、露骨に金を愛し、そして愛を欲する。そんな女性。大半の人間はそれをわがままと狂気、ととらえるだろうけど、その魅力の虜になるというのもどこか納得いく。人間だれだって素直になりたいものだ。でもそこにモラルとか世間体とかいろんな縛りがあるからできないだけで、それを気にせず自分の感情をあらわにできる人をみてあたかも自分もそうなった気分を味わえるのであれば、どんなにスカッとするだろうか。

くんくの奥さんやだまされた今までの男たち、そして現在進行形でだまされているちくわ工場の男たち。彼らが彼女のあのストレートな物言いにあこがれる気持ち、理屈ではわからなくても、直感的に共有できる気がする。

またね、池谷さんと美月ちゃんが徐々に徐々にと一体化していく演出がにくかった。中国のことわざで「情人眼里出西施」という言葉がある。惚れた人の目にはどんな外見の女性だって西施のような春秋時代傾国の美女と言われた女性に見えるものだ、という意味。この言葉のように、過去だまされた男たちには、苗田が美月ちゃんに見える瞬間がいくつかある、という演出がある。そんな演出を経て今一度くんくに興奮した表情で苗田の話をする美月ちゃんは、果たしてどっちなのか。その美月ちゃんが苗田に見えた瞬間、まるで観客も共犯になったような気分になるのがすごい。あれだね、『ジョーカー』を一娯楽映画として楽しめた層と、自分のストーリーかのように共感してさらには自分と同化しようとしてしまった人がいるのと似てる。池谷さんのどしっと重厚感のある存在感と、いい意味で美月ちゃんの不安定な感じが、またさらにこの二人の人格のぐらぐらした感じを助長していて、見ているこっちも途中から困惑してくるというからくり。

 

もちろん3人は言うまでもなく。というかいつにも増していろんな役をこなしてるから大変(笑) 美月ちゃんたちもちょいちょい地下アイドル役とか、若作りした苗田のJK姿とか、さらには寿司屋の大将役で角刈りのカツラ姿とか、滑稽なのにかわいかった。なにより池谷さん、ほんと色っぽかったな。パンフで皆さんもおっしゃってたけど、池谷さんはほんとにきれいで色っぽい女優さんがゆえに、今回の苗田役って名声こそ「お世辞には綺麗と言い難い」という設定になってるけど、例えば事後に布団から起き上がった姿とか、ちょっとしたときに喫茶店で男に使う目色とか、色気がすごくて見ているこっちもドキドキするのよ。

くんくのおどおどした感じも似合ってたなー。もう冒頭インタビューする場所がちくわ工場って時点ですでに嫌な予感はしてたんだけど、いくら演劇とわかっていてもカーテンコールでちょっと手の爪が赤くなってるおじさんたちと、その真ん中のベルトコンベアにぶっ刺さるおびただしい数のちくわ見るとゾッとするよね(笑) 煽り運転とかいろいろ世相の小ネタもはさみつつ、絶望的なエンディングなのにどこかおめでたい雰囲気すらする不思議な作品。映像でいいので見る機会がある人はほんと見てほしい。

あとパンフレットのそれぞれのキャストが手書きで書いてる中学生が書くようなプロフィール表がめちゃくちゃ読み応えあったので機会があれば手に入れてほしい。くんくに2回お中元送った蝉之介謎すぎて笑う。あとおじさんたちが美月ちゃん溺愛すぎて。わかるぞ

 

しかし冒頭でも嘆いたけど、このメンツで席が埋まらないはずがなく。まだまだ当面は終わりの兆しが見えないコロナの状況が本当に憎い。早くまた会場で安心してエンタメを楽しめる日が戻ってきてほしい。切実に。あとこういう作品はほんと現場で見てなんぼよ。やっぱり。だいぶ配信とか慣れてきたけど、配信という選択肢を今後も残しつつ、できれば早くまたみんなが劇場に戻ってこれますように。