ブッ壊れたシャワーヘッド

好きなものを、不規則に撒き散らすだけ

18/10/08 二十日鼠と人間 マチネ@グローブ座

原作Of Mice And Menはわりと英語圏の高校ではポピュラーな課題図書でしてね。英語を第一言語として学ぶ高校に通っていたのですが、私も二年生のときに授業で原作を読まされ、さらには深掘りするために映画も見させられました。健くんが最初この舞台をやると発表したときはとにかくまずはそんなノスタルジックな気持ちになった記憶が。チケット取れてよかったよ~また軽率に飛行機を使ってしまった。ほんと今の居住拠点に来てから飛行機を使用することに対しての抵抗感がゼロになってしまった。どこに行くにも飛行機なしだと無理だから。シベリア遠いよね~~~。

 

そんなわけで片道4時間くらいかけて日帰りマチネグローブ座しました。これが地震発生後の初ぶいさんの現場だったんだけど*1、よかったよ~!なにより、ほんと正直1か月前の地震が、3.11の時まだお外にいた自分にとってはトラウマ級だったので、こうやって日常じゃないけどまた自分の好きなものに触れられることへの安心感のほうが大きくてね。舞台への高揚感にそんな安心感がプラスアルファされてもっといい思い出になったというところはあります。話はめちゃくちゃ重たい話だけど。

ではいったん畳みまして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ざっくりあらすじ:

世界恐慌時代のアメリカ。しっかり者で用心深いジョージと、図体は大きく仕事はとてもできるけど頭が足りない少年のようなレニーは、出稼ぎ労働者として国内の農場を渡り歩いてきていた。二人はいつもレニーが巻き起こす騒動のせいで農場を転々とするはめになっていたが、それについて積もる思いはあるものの、ジョージはレニーを見放すことなく、レニーの尻ぬぐいをしながら常に二人で行動を共にし、レニーもまた、ジョージに対しては絶大な信頼と親愛を示していた。

ある時、またレニーの起こした問題で農場を追い出された二人は、新しい農場にやってきた。そこでリーダー格の冷静沈着なスリム、下種な話題が大好きなホイットやカールソン、片手がなく家事を任されている老人キャンディ、一人馬小屋で作業する黒人のクルックスなどと働くこととなった。

ジョージとレニーは、いつか自分たちの農場を持って自由に暮らすことを夢見ており、それに共感したキャンディもぜひ投資させてほしいと願い出て、夢へ着実に向かうはずだった。しかし、農場ボスの息子カーリーがやたらレニーにちょっかいを出して問題を起こさせようとする。それに加え、カーリーの嫁も「話し相手が欲しい」と、やたら農場の男たちにちょっかいを出してきた。

ジョージは今度こそお金がたまるまで農場を追い出されないようにと、ちょっかいを出されても決して返さないようにレニーに何度も言いつけるが、カーリーとその妻の度を越した絡み方の結果、レニーはまた自身の力加減を見誤り、間違って妻を殺してしまう。

恨みを晴らすためカーリーは農場の男たちに呼びかけ、レニーを捕まえようと躍起になった。ジョージは死んだ妻を見た瞬間にレニーがやってしまったことを悟り、一人レニーを探し出し、農場の人たちのリンチに会う前に、泣く泣くレニーの命を奪うことを決心したのだった。

 

 

 

 

 

 

スタインベックの原作の元になっているスコットランド詩人ロバート・バーンズの詩「To a Mouse」は、どんなに綿密な計画でも予期せぬ事象で壊されることがあるということをネズミの巣が荒らされるということから詠っているわけなのだけど、この話もまさにそうで、ジョージはかなり具体的にいくらの金額をためてどれくらいの大きさの農場を買えば二人でも十分経営できるか算段し、実現に向けて綿密な労働計画を建てており、知能に遅れがありいわれたことをすぐに忘れてしまうレニーでも、唯一この農場買収計画については自分が一番大好きな寝る前のおとぎ話のごとく鮮明に覚えているわけで。

二人が純粋無垢にただひたむきに追いかけてきた計画も、悪意なき第三者によっていとも簡単に壊されてしまうということが、ただただむなしくて切ない、そんなお話でした。

農場の息子夫婦は、レニーに一方的に意地悪をしたり、話し相手が欲しいとはいえむやみに男を誘惑したり執拗に話しかけようとする姿は決して「いい人」ではないかもしれない。でもジョージ達の計画実行に向けて直接だれか妨害をしようとしている人はストーリーには誰もいなくて、なのにもかかわらず二人がどんなに頑張ってもがいても夢にたどり着けないさまは、アメリカンドリームに対してのアンチテーゼだと思うし、まずレニーが全く悪人でないからこそ余計胸が締め付けられました。

実際、最後のシーンはほんと周りからめっちゃ嗚咽声が聞こえてきてね…わかるよ。わかる。

 

いやしかし、長丁場でこの舞台を続けるキャストの皆さんほんと大変だと思う。健くん、感情の起伏は激しいしまずめっちゃ怒鳴るシーンが多いから、あれは確かにのどやられるよ~*2。冒頭からジョージもとい健くん、言うこと聞かないレニーもとい章平くんに何回もきつく叱ったり、ぷりぷり怒りながらでも豆の缶詰を開けてあげて火をおこしたり、あるいはレニーに頼まれて優しく農場の夢の話を聞かせてあげたりと、一人レニーのオカン状態。基本中盤シーンは一人で悩んでたり周りを疑い深く観察しているシーンばかりなので、むしろこの冒頭シーンが一番目まぐるしくいろんな表情を見せてくれるのでは。

 章平くん演じるレニーはとにかく大きく育ちすぎた子供というか、力加減がわからなくなった悲しいモンスターというか。ふわふわしたものが好きだからと勝手にネズミを捕まえては飼ったつもりが握りつぶして殺してしまっていたり、見ず知らずの女性のさわり心地のいいスカートを触って暴漢と間違えられたり、農場でも子犬をやはり力を見誤って殺してしまったりと、とにかく力持ち故にどうしようもなく周囲に迷惑をこうむってしまう男性。でもジョージを呼ぶ声はとっても無邪気で、ジョージを見る目は本当にまっすぐで、ジョージの腰に抱き着いて泣きわめく姿は本当にけなげで。それを見るジョージの目は迷惑そうでも優しく、いとおしそうでした。

だからこそ、最後にジョージが涙を目に浮かべながらレニーと一人対峙するシーンが切なくて仕方なかったです。大切だから、守りたいから、苦しみから解き放したいから、そして、自分も解放されたいから、自分がレニーに手をかける。そんな葛藤と苦しみが伝わってきて胸が締め付けられました。

 

健くんの舞台、今回が初めてだったのですが、小さいからだであんなに感情を爆発させられる役者さんなんだなぁと。正直、滑舌は他の舞台役者さんと比べると少し劣るので、大声で早口でレニーや農場の男たちにまくしたてるシーンは少し聞き取りづらいところがあるのですが、涙ながらに強く訴えるシーンは、本当に説得力があって、力強さを感じました。個人的にはタバコ吸うシーンが新鮮で、思わず双眼鏡を握りしめてしまった。

他の役者陣も魅力的な方々ばかりでしたね。実は今回の舞台、当たると思ってなくて全然事前予習せずに行っちゃったので、出てくる人出てくる人に「あ、この人も出演してるんだ」と新鮮に驚いてたんですけど(ひどい)、特に姜暢雄くん。姜くん演じるスリムという役は一番複雑で、敵でもなく味方でもなく、中立かつ平等でいながらどこか冷たさも感じられる、そんな役どころ。ジョージたちの境遇やレニーの不器用さと優しさに気付けるし、カーリーの挑発にのらず、カーリー妻の誘惑にもなびかず、いつもひょうひょうとどこか一匹狼のような雰囲気もある。ラスト、事件を引き起こしてしまったのがレニーだといち早く気付いたのも彼だし、それをわかったうえで他の男たちの気を引き、ジェリーだけがレニーを見つけられるよう誘導したのも彼。いわば、ストーリーのキーマンともいえよう。

姜くんはそんなスリムを、やさしく深みのある声を使って懐の深さを見せ、なおかつ目に魂を込めないことでスリムの他人に心を安易に開かない神秘的な様子を表現しており、すごく引き込まれました。というか、普通に顔めっちゃ整ってるよね!!イケパラのオスカーもとい第三寮長姫島役の時からめっちゃ顔が好みだったんだけど、髭もめっちゃいい。憂いある顔してるよね。出てきたとき一番興奮したわ。*3もっと露出増えてくれ~。

 

ということで1か月近く、本当にお疲れさまでした。「ジョージの大事なセリフの時に限って大勢の農場労働者が一斉にしゃべりだす演出やめて!」とか、「カテコの最後、レニーがジョージをお姫様抱っこするのがまさかの演出家による演出付きだったのはまじで超ショック」とか、主に演出面ではいろいろと言いたいことがあるけど*4、まずは本当になにも大きいけがなく終わったのがうれしいし、健くんにはのどをきちんと休んでほしい!ちなみに年明けの羅生門もシベリアで見れることになったので、めちゃんこ楽しみにしてます!健くん過労で倒れちゃうよ~生ひろしを拝める仕事もお待ちしてますよ~(どさくさ)

 

 

 

 

 

*1:おかげさまで1日停電断水したのと棚の小物が吹っ飛んだけど、無事でしたよ

*2:ラヂオで「マヌカハニーめっちゃ飲んでる」「仕事のとき以外はマネージャーとのやり取りもメールで済ませて、なるべく声を出さないようにしている」とか言ってたもんね

*3:ぶいのFC枠でとったチケットなんだけどね

*4:※好みの問題です